研究概要 |
日本沿岸部15地点の海底堆積物を分析し,堆積環境並びに堆積メカニズムについて貴重な知見を得ることができた.以下に主な成果を要約する. 東京湾(II)(湾奥部),東京湾(IV)(湾口部),陸奥湾および噴火湾の東日本沿岸海底堆積物コア試料,およびそれらの比較対照として外洋の北西太平洋海底堆積物コア試料中の主要および微量元素延べ14元素を,機器中性子放射化分析により定量した.また,鉛210法を用いて沿岸堆積物の堆積速度および堆積年代を算出した.その結果,以下の知見が得られた.1.ランタノイドパターンは全ての試料において負の傾きをもつことから,それら堆積物の起源は主に陸源物質であり,また,La^*/Lu^*比およびCe^*/La^*比より,東京湾(II)および陸奥湾堆積物は,河川等からの陸源物質の寄与を,より直接的に反映していることが示唆された.さらに,Th/Sc比より,沿岸堆積物は河川等を通じて島弧起源物質の寄与が大きく,北西太平洋堆積物は風送による大陸起源物質の寄与が支配的であることが明らかとなった.2.Ce/U比-Th/U比の相関は,全てのコア試料で相関係数が0.920〜0.991と極めて高い相関を示した.また,東京湾(II)および噴火湾では全コアを通じて還元環境にあり,一方,東京湾(IV)および陸奥湾では,少なくとも上層部で酸化的な環境にあることが示唆された.本研究で新たに導入したCe/U比-Th/U比を用いる方法は,堆積環境を知る上で極めて有効と思われる.3.同一湾内であっても,東京湾湾奥部(II)は湾口部(IV)と比べて堆積速度が2倍ほど速く,堆積環境と同様,堆積メカニズムにおいても明らかな相違があることが判明した.さらに,鉄およびマンガンの濃度上昇が見られた噴火湾第5層(堆積深度8〜10cm)の堆積年代は,およそ1940〜50年と求められ,その年代は,有珠火山の噴火により昭和新山が形成された1943〜45年と一致した.
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