研究概要 |
屋敷林は家屋を取り囲むように敷地内に設けられた樹木群で,厳しい気候や自然災害などから家屋を守ること,燃料や建築材を確保することなどを目的としている。本研究では,景観生態学的手法を用い,生物多様性の維持や創出機能という視点から,地域や農村生態系における屋敷林の役割を解明しようとした。調査は岩手県胆沢扇状地で行った。 1.屋敷林の生物多様性 ここでは75%の屋敷に屋敷林があり,特有の農村景観を形成していた。この屋敷林の森林構造はスギ植林と類似しており,植栽を起源とするものが大部分であったが,半自然性の二次林の特徴を有したものもわずかに含まれていた。植物相では200種以上の植物が生育する屋敷林もあり,周囲の二次林に対して種多様度は高かった。これは水田に囲まれていることで林縁部が広いこと,人為的な影響を受けていることなどにより,森林生,林縁生,耕地生の植物が混生し,鳥散布植物や移入植物も多く含まれていたことによる。このような状況は埋土種子群や鳥類相でも同様であった。しかし,コウチュウ類では種多様度は貧弱で,屋敷林は生息するためには狭く,単調な厳しい環境下にあることを意味していた。 2.屋敷林の立地環境 ここでは相対高度が異なる4つの河岸段丘が存在し,屋敷林のサイズに大きく関わっていた。開拓が最も早い下位の水沢面では屋敷林のサイズは小さく,第二次大戦以降に開拓された上位の上野原面ではより大きなサイズであった。これらを地理情報システム(GIS)を用いて,面積の変化を捉えた結果,近年はすべての段丘面において緩やかに減少傾向が認められた。これには農地整備や燃料革命,高齢化,都市化などの農村社会の変化が関係し,屋敷林を取り巻く環境は厳しくなっていることが明らかとなった。
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