研究概要 |
紅茶は,世界の茶生産の8割を占め,健康維持効果があるポリフェノール摂取源として極めて重要な飲料でありながら,そのポリフェノールについて科学的には明らかになっていない。我々は,ポリフェノール分離構造決定技術とモデル発酵実験を駆使して,以下のような成果を挙げた。 1.純粋分離したカテキンを茶葉発酵を模した条件で酸化することで,数種の新規代謝産物を分離し構造決定した。 2.酸化過程で生じる不安定な二量体キノンを誘導体としてトラップしてその存在を確認すると共に,その,紅茶製造工程での蓄積を明らかにした。 3.二量体キノンの反応性を検討し,熱処理で酸化還元不均化反応を起こすこと,酸性では安定であるが,中性では非常に不安定で複雑な生成物を生じることを明らかにした。 4.二量体キノンが酵素酸化だけではなく,水溶液中での自動酸化やフェリシアン化カリウム処理でも生じることを確認した。 5.茶カテキンと類似の構造を持つフラボノール配糖体を用いて,類似のモデル酸化実験を行い,茶カテキンと同様の酸化が起こることを見出した。また,茶カテキンを用いた実験では得られない知見として,いくつかの新しい酸化メカニズムの存在を明らかにした。 6.紅茶から数種の新規化合物を分離構造決定し,紅茶製造時にも,in vitro実験と同様の機構でカテキン酸化が起こっていることが示された。 7.血糖値上昇抑制食品としての応用を目指して,紅茶色素で重要なカテキン酸化生成物であるテアフラビン高含有エキスの大量製造法を考案し,得られた試作品に強いアミラーゼ阻害作用があることを見出した。さらに,阻害作用の活性本体は,テアフラビン及び水溶性高分子ポリフェノールであることを突き止めた。 8.現在,この不安定二量体キノンをそのままの形で分離することを検討しており,また,二量体キノンと共に生成する酸化生成物の構造解析を行っている。
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