研究概要 |
真核細胞mRNA5'末端キャップ構造(m^7GpppN)は遺伝情報発現の複数のステップで重要なシグナルとして機能している。キャップ構造はRNA polymerase IIによる転写開始直後、mRNAキャッピング酵素(RNA5'-トリホスファターゼ+mRNAグアニル酸転移酵素)、mRNAキャップメチルトランスフェラーゼ(mRNAグアニン-7-メチル基転移酵素)の作用によりmRNA5'末端に形成される。これらの酵素の構造は、最近まで、我々が初めてクローニングした出芽酵母のmRNAキャッピング酵素αサブユニット(mRNAグアニル酸転移酵素)の他、数種類のウィルスで知られているにすぎなかった。本研究において、出芽酵母のmRNAキャッピング酵素βサブユニット(RNA5'-トリフォスファターゼ)、ヒトmRNAキャッピング酵素、ヒトmRNAキャップメチルトランスフェラーゼの遺伝子クローニングを行い、それらの構造を明らかにした。出芽酵母のmRNAキャッピング酵素βサブユニット遺伝子(CET1)は549アミノ酸をコードし、そのC末端領域にRNA 5'-トリホスファターゼ活性領域、その上流にαサブユニットとの相互作用部位が存在した。ヒトmRNAキャッピング酵素には、C末端領域のみが異なる、それぞれ597,541アミノ酸をコードする2種類の遺伝子(hCAP1a, b)が存在し、N末端にRNA5'-トリフォスファターゼ活性領域、C末端にmRNAグアニル酸転移酵素活性領域が同定された。mRNAグアニル酸転移酵素活性領域はウイルス、酵母の同酵素間で高度に保存されていた。一方、ヒトRNA5'-トリフォスファターゼ領域にはプロテインチロシンフォスファターゼ(PTP)の活性中心と相同な領域が見出されたがCet1との相同性は認められなかった。ヒトmRNAキャップメチルトランスフェラーゼには少なくとも3種類の遺伝子(hCMT1a, b, c)があり、このうちhcMT1a, hCMT1bはC末端領域の一部異なる、それぞれ476,504アミノ酸をコードし、そのなかにウイルス、酵母の同酵素と高いホモロジーを持つ領域が同定された。さらに本研究において、hCAP1とhCMT1の相互作用をみいだし、それに必須な領域を詳細に解析した。これにより、2つの酵素が複合体を形成し、RNA polymerase IIの転写装置に組み込まれることが示唆された。本研究では、これらの相互作用と酵素の活性の相関について解析を行い、相互作用部位と、相互作用の活性の及ぼす影響を明らかにした。
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