研究概要 |
NO合成酵素(NOS)は、ヘムを含むオキシゲナーゼドメインと還元酵素ドメインの二つのドメインからなる複合酵素である。NOSは二量体の時のみ活性型となり、常にCaMが結合している誘導型iNOSでは、一つのサブユニットの還元酵素ドメインからもう一方のサブユニットのオキシゲナーゼドメインのヘムへと電子が伝達されると言われている。一方神経型nNOS活性は、両ドメインの間に存在するカルモジュリンCaM結合部位へのCa2+/CaMの結合によって制御されるが、分子内電子移動機構は不明であった。またnNOSの自己阻害配列といわれる部位の欠失変異体(Δ40)を作成し解析したところ、CaM非存在下でも活性を示した。そこでnNOSにおける電子伝達機構を解析する目的で、種々の完全長のサブユニットとオキシゲナーゼドメインのみのサブユニットからなるヘテロダイマーの構築を行い、解析を行った。 (1)野生型およびΔ40の基質結合部位の変異体(それぞれE592A、E592AΔ40)、またE592Aのヘムドメインのみの変異体(E592Aox)の発現プラスミドを作製し,大腸菌で発現を行なった。ヘテロダイマーを用いて、CaM非存在下および存在下でのヘムの還元や反応活性を測定し、ドメイン間の電子伝達機構の解析を行った。その結果、nNOS野生型では、Ca2+/CaM存在下でのみ、しかもサブユニット分子間でのみ電子移動がおきることを明らかにした。さらに自己阻害配列の欠損変異体Δ40では野生型と異なりCa2+/CaM非依存的にしかも二量体の分子間でも同一分子内でもヘムへの電子移動が可能であった。ところが、野生型でもΔ40でもCa2+/CaM依存的に分子間電子移動が可能な時にのみNO合成活性が見られた。これらの結果はJ. Biol. Chem.276,30036-30042,J. Biol. Chem.276,39864-39871(2001)等に報告した。 (2)さらに、この自己阻害配列部位に余分な33アミノ酸の挿入配列をもち骨格筋にのみ特異的に発現する事が知られているnNOSμのCaM及びカベオリンによる反応の制御機構を解明することを目的に次の研究を行った。ラット骨格筋のcDNAライブラリーから調整したDNAをテンプレートにしてPCR法を用いて、nNOSμのcDNAを単離した。シークエンシングによって塩基配列を確認し、大腸菌発現系を構築した。大腸菌1L培養液から、約100nmo1の蛋白標品が得られた。その蛋白を各種アフィニテイークロマトを用いて精製を行った。野生型、Δ40、μのnNOSのNO合成活性や還元酵素活性を測定し、さらにカベオリンペプチドやCaMの添加効果を解析中である。
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