研究概要 |
骨格筋の解糖系の調節機構を明らかにする目的で、フルクトース2.6-二燐酸合成分解酵素(F6P2K)の組織特異的な発現様式を検討した。F6P2Kは、解糖系の最も強力な調節因子であるフルクトース2.6-二燐酸(F26P)の合成と分解を司っている二機能酵素であり、合成酵素活性と分解酵素活性の比を変化させることでF26Pの含量を決定している。この酵素には、肝臓型、心臓型、精巣型、脳型の4つのアイソザイムの遺伝子が存在し、さらに選択的スプライシングによって、15種類のアイソフォームを生み出している。この多様性が、心臓と肝臓において臓器特異的な解糖系の調節を可能にしている。RNaseプロテクションアッセイやRT-PCR結果から、骨格筋にはRM2K, RH2K1,RH2K4,RB2K2,RB2K3,RB2K5,RB2K6,RB2K7,RB2K8の9種類のアイソフォームをコードするmRNAが存在することが分かった。この内RM2Kは蛋白質として骨格筋の中に存在することがすでに知られていたが、酵素としての性質がF26Pを分解するのみで合成することはなく、解糖系を調節することはできないものであった。そこで残りのmRNAがコードする8種のアイソフォームを見分けることのできる抗ペプチド抗体を作成し、どの分子種が蛋白質として骨格筋内に発現しているのかをウェスタンブロティング法を用いて検討した。その結果これらのmRNAは骨格筋に豊富に存在するにもかかわらず、アイソフォーム蛋白質としてすべて発現していなかった。興味深いことに、RB2K7及び8のmRNAは、脳や心臓にも骨格筋と同程度発現していたが、蛋白質としてはRB2K7が心臓に発現しているのみであった。このことは、このアイソフォームの発現の調節が転写レベルではなく、翻訳過程かまたは翻訳後の過程で行われていることが示された。
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