研究概要 |
[NiFe]ヒドロゲナーゼ活性部位には`酸化炭素分子(CO)が配位し,水素の競争阻害剤になることが知られている.CO分子は酵素の本来の活性部位(水素結合部位)に結合すると予想される.またCO分子は可視光の照射によっても活性部位から遊離することが分光学的に確認されている.本研究では,還元型酵素の活性部位にCO分子を結合させたCO結合型およびこれを光照射により遊離させた光解離型の超高分解能X線結晶解析を行い水素の結合位置および初期反応機構を準動的X線結晶解析法にてトラップすることを目指し,これに成功した.3つのCO結合型[NiFe]ヒドロゲナーゼ結晶(A, B, C)において様々な条件「光・結晶周りのガス雰囲気」で回折データを測定し(100K),CO分子の結合・遊離の構造変化を準動的超精密X線結晶解析法(1.1-1.2Å分解能)により解析した.その結果,阻害剤・CO分子はFe原子ではなく,Ni原子に結合することが分り.またその結合の様式は,ヘムタンパク質等で見いだされている「直線配位型」ではなく「曲がった配位型」であることが明らかになった.さらに水素結合型と遊離型の結晶回折データから計算した差の電子密度図(Fo-Foマップ)によるとCO分子の結合と遊離の過程でNi原子とひとつのシステイン(Cys546)S原子の電子密度分布が大きく変化していることが分った.Fe原子およびその2原子分子配位子の電子密度はほとんど変化していなかった.これらのことから分子状水素の解離にはNiとこのCys546のS原子が大きく関与していることを明らかにした.
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