研究概要 |
本研究では,好中球の増殖と分化の分子機構を解明することを目的に,G-CSFの細胞内シグナル伝達機構および好中球特異的転写因子MZF-2による遺伝子発現制御機構を研究した。まず,MZF-2の種々の欠失変異体の解析によって転写活性化ドメインを明らかにし,そのドメイン内の複数のアミノ酸残基がMAPキナーゼ(ERK)によってリン酸化されることを見いだした。そこでThr/Ser残基についてAla置換変異を導入して解析した結果,Ser257,Ser275,Ser295がERKによってリン酸化されることが明らかになった。これらのAla置換変異体では好中球前駆細胞における転写促進活性が野生型よりも増強することから,MZF-2の転写活性化能はERK MAPキナーゼによって負の制御を受けることが示唆された。他方,酵母Rasrecruitment two-hybrid法を用いてMZF2の転写活性化ドメインに結合する核内因子を探索し,SWI2/SNF2型ATPase/helicaseドメインを持つmDominoをクローニングした。mDominoは3035アミノ酸残基から成る巨大タンパク質であり,そのC末端領域にはポリグルタミン配列を有する特徴的なドメインが存在した。mDominoの種々の欠失変異体の機能解析の結果,MZF-2はmDominoのC末端ドメインに結合すること,このドメインをLGM-1細胞で発現させるとMZF-2の転写促進活性を増強することが明らかになった。SWI2/SNF2型ATPase/helicaseファミリーはクロマチン再構成因子の構成成分としてヒストンアセチル化/脱アセチル化酵素などと相互作用することが知られており,mDominoとMZF-2の複合体形成を介したクロマチン再構成によって骨髄球分化に関わる遺伝子発現が制御される可能性が示された。
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