研究概要 |
両生類には様々な受精様式が見られる。本研究は体内受精を行うイモリ類の受精様式に適応した精子運動開始機構について、制御因子を同定して作用機序を明らかにすることを目的とする。 イモリの受精は雌の総排泄腔内で起こり、精子は卵ジェリー層に直接媒精される。卵ジェリー層は、精子運動開始因子(SMIS)が含むが、同時に精子の運動調節に関与しうるNa^+,K^+及びCa^<2+>も含み、比較的高いpHに保たれる。生理的な環境下でのSMISの作用機序を調べるために、それぞれのイオン濃度及びpHの測定値から再構成した環境下でCa^<2+>チャネル阻害剤のベラパミル及びK^+チャネル阻害剤のカリブドトキシンを用いて,イモリ卵ジェリー抽出液による精子運動開始に対する作用を調べた。その結果,どちらの阻害剤においても特異的な精子運動開始の阻害が見られ,Ca^<2+>チャネル及びK^+チャネルが,SMISの下流で精子の運動開始に関与することが示唆された。また精子の運動パターンの解析から,SMISの作用機序は体外受精を行う種の精子運動開始を担う浸透圧低下の作用機序と異なることが示唆された。 一方、SMISの候補分子についてアミノ酸配列の解読を試みたが,夾雑タンパク質のため十分な情報が得られなかった。SMISは排卵を誘発させたイモリの輸卵管で特異的に合成されると考えられる。そこで,この輸卵管に特異的に発現するmRNAの解析からSMIS遺伝子の単離を目指し,排卵誘発前(+)及び誘発後(-)の輸卵管に由来するcDNAライブラリーを作成した。このライブラリーから,サブトラクション法によるSMIS遺伝子の単離が期待される。 イモリ卵ジェリー層の受精様式に適応した精子運動開始機構は両生類の多様な種を生み出す要因となりうる重要な現象であり,今後受精に見られるその他の現象もあわせて網羅的に比較発生学的な解析を行うことが必要である。
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