研究概要 |
1)中国産ナメクジウオの原腸胚から神経胚までのwnt7,wnt8,bmp2/4,brachyury, hnf3-βの発現パターンを解析した結果、bmp2/4以外は脊椎動物に類似したパターンを示した。特にhnf3-βでは、背側正中での発現とは別に、それより早く原腸前腹側領域に独立した発現が出現し、脊椎動物との共通性が示唆された。しかし、bmp2/4のパターンは異なり、脊椎動物で発現が抑制される体前方と背側での発現が継続して観察された。また、上記遺伝子の発現解析により、ナメクジウオ類の原腸胚期では、体前方と後方で発生に関わる分子機構が異なることが示唆され、これは後口動物の基本形と考えられる三体腔領域の前体腔と後体空に対応すると考えられる(公表済み)。 2)1)で明らかになった体構築の分子的基盤を提供すると考えられる、発生のより初期の分子動態を明らかにするために、母性因子の検索を行った。その結果、β-catenin蛋白,nodal, Tbrain/eomesodermin(Tbr/epmes),FGF受容体mRNAが未受精卵以降、胞胚期まで検出された。それらの分布は分子により異なるが、第1卵割開始に前後して動物極に偏在し、卵割とともに植物極側に移動もしくは拡散する共通性が認められた。また、卵割期の分布には濃度勾配が認められるものがあり、それは、第1卵割時の非対称分布が原因と考えられた。これら分子の挙動との関連が示唆される微小管の分布にも、第1卵割期に非対称性が認められ、相互の因果関係が示唆された。また、LiCl処理による母性因子、微小管の分布の乱れが第1卵割から認められた。Nodal, Tbr/eomesの胚自身の最初の発現は前期原腸胚で始まり、全ての細胞に認められた。一方で、脊椎動物で背側特異的に発現するotx, goosecoid, lim3は、やはり最初の発現が前期原腸胚で始まり、脊椎動物同様背側で発現した。LiCl処理により、これら3つの遺伝子発現は動物極を中心とした発現に変わり、将来の背側原口唇には達しない。核内β-cateninの分布もそれに対応した。しかし、LiCl処理胚には背側軸の形成・前後の伸張不全を認めるが、背腹・左右の極性は出現することが明らかとなった。以上の結果は、ナメクジウオ類での母性因子から胚自身の遺伝子発現開始の分子メカニズムは、使用する分子の共通性は認められるが、脊椎動物から見てかなり特異的であることが示唆された。また、胚の極性は発生の初期(多分第1卵割期)に生ずることが示唆された(投稿中)。 3)ナメクジウオ類およびそれに関連する動物の研究成果の発表と研究者間の意見交換のため、国際ワークショップ「Origin and Evolution of Chordates」を平成12年11月に鹿児島で開催した(公表済み)。
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