研究概要 |
運動学習の分子機構を個体レベルで解析するために,中枢神経系において興奮性神経伝達を中心的に担うグルタミン酸受容体(GluR)に焦点を絞り,小脳プルキンエ細胞特異的GluRδ2および,NMDA型GluRε1,ε2の遺伝子ノックアウト(KO)マウスを解析して以下の研究成果を得た. 1)条件刺激(CS)である音と非条件刺激(US)である電気ショックを連合させる瞬目反射条件付けを用いた運動学習を測定しGluRδ2 KOマウスは,CSとUSが時間的に重なる課題における学習ができない一方,CSとUSが重ならない課題での学習は可能であることを見い出した.従って,同じCSとUSを用いた運動学習においても課題依存的に学習に関わる脳内システムが異なることが示唆された. 2)NMDA型GluRε1KOマウスの瞬目反射条件付けの解析から,NMDA受容体GluRε1はCSとUSが重ならずその時間間隔の長い課題での学習に必要であることが明らかとなった. 3)GluRε2 KOマウスは神経回路形成に障害があり生後1日以内に死亡するが,ヘテロ欠損マウスは成長し繁殖も可能である.このGluRε2ヘテロ欠損マウスの解析から,GluRε2が音驚愕反射の制御に特異的に関わることを見い出した.音驚愕反射の1次回路は脳幹より下位にあり,GluRε2サブユニットは成体では前脳特異的に発現することから,GluRε2の発現する前脳が音驚愕反射の機能修飾を行っていることが明かとなった. 4)脳部位特異的かつ誘導型の遺伝子操作法を開発するために遺伝子組み換え酵素Creを小脳プルキンエ細胞,海馬CA3野,線条体特異的に発現するマウス系統を作成した.一方,GluRδ2,NMDA受容体,神経栄養因子受容体を標的としてCreによる遺伝子欠損が可能なマウスをC57BL/6系統由来のES細胞を用いて確立した.
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