研究概要 |
学習・記憶の基礎過程を解明するうえで、軟体動物を使った研究は対象とする神経細胞数が少なく、ために回路も比較的簡単で、細胞自身も大きいため実験的取り扱いが容易であるという利点から多い。学習、記憶を行動のうえで確認するには、ある特定の刺激に対して行動が変化することがわかりやすい。このような理由から、われわれはウミウシを光と振動という2種類の刺激の時間関係を学習させる、いわゆる古典的条件付けを行い、神経系で見られる変化を生理学的、生化学的、形態学的に検討してきた。光と振動の時間関係を学習して行動が変化する際に観察されるある特定の神経細胞(B型視細胞)での変化は、摘出した中枢神経系に対して条件付けを行っても同様に観察される。これは光と振動を受容する、視覚系と前庭系の感覚受容器が摘出標本においても無傷で備わっているというウミウシのユニークな身体的特徴によっている。本研究ではこの摘出標本による条件付け、単離脳条件付けによってB型視細胞におこる形態学的な変化の時間的な特徴を検討することが目的となっている。まず単離脳条件付けと個体条件付けを対応付けるため、B型視細胞の興奮性の変化、すなわち入力抵抗の増大と光応答の持続化、を指標として、いずれも単離脳条件付けで再現されることを確認した。ついで摘出標本を作成し、そこでB型視細胞に電極を刺入し細胞標識用色素を注入しながら入力抵抗、光応答を記録した。この状態で3秒間の光刺激とそれに1秒遅れる振動刺激を与えて単離脳条件付けを行った。振動刺激は平衡胞だけを刺激するために先端を加工したガラスプローブをピエゾ素子で振動させて行った。このような組刺激を5回与えて、,その過程を共焦点顕微鏡で観察しながらB型視細胞の軸索終末の形態を観察した。その結果、これまで形態変化にはある程度の時間を要すると考えられた予測を超えて、ずっと短時間に変化することが明らかとなった。
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