研究概要 |
私達は,環境の空間的な配置を脳内に再現することによって自分の位置を認知し,また種々の日常生活行動を営んでいる。このしくみを認知地図(cognitive map)という。この認知地図に関係した神経機構を調べるために,人工現実感(バーチャル・リアリティ;virtual reality)で仮想空間内をジョイステックを操作して,最終目標の部屋までの道順を覚える探索行動課題を成熟したニホンザル2頭に学習させた。 1.行動学的特徴:訓練はまず,出発地点から3方向(左,右,直進)を選択する課題を学習させた(第1の訓練)。それが成功すると,さらに2番目の出発地点からの探索行動課題の訓練(第2の訓練)を行った。その結果,第2の訓練時間は最初の訓練時間よりも短時間であることが示された。さらに,新しい出発地点から次の地点に行く方向を見つけるのに要する時間は,第2の訓練終了後の方が第1の訓練終了後よりも短いことが明らかになった。2.ニューロン活動の特徴:上頭頂小葉内側領域(7m)から364個のニューロンが記録できた。記録されたニューロンには,仮想空間内のある特定の場所やゴールの部屋のドアの前に来ると発火頻度の増加する場所細胞(place cell)と呼ばれる種類のニューロンがあった。記録されたニューロンのうち,150個(41%)のニューロンは3つの動き(左,右,直進)のうちの少なくとも1つに反応し,56個(15%)は運動選択性を示し,その活動は運動のタイプによって変化した。運動選択性ニューロン(movement-selective neurons)のうち,42個(75%)は位置に対して選択性があり,人工現実感での仮想環境内の位置によって運動による反応性は変化した。これらのニューロンは,サルがある特別な位置で,特定の運動を行った時に活動し始めることから,目的地への経路に伴う重要な情報を表わしていると思われる。
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