研究概要 |
麻酔下に成熟ラットの海馬を摘出し、矢状断スライス標本(厚さ400μm)を作成、灌流槽内に固定し、正常人工脳脊髄液(95%O_2-5%CO_2飽和、36℃)で灌流した。海馬CA1錐体細胞から細胞内記録を行ない、酸素・グルコース除去液(95%N_2-5%CO_2飽和)を灌流し、実験的虚血負荷とした。虚血負荷後約6分で急峻脱分極電位が発生し、直ちに正常人工脳脊髄液を灌流しても脱分極は持続し膜電位、膜抵抗の回復は見られず、0mVに達する。アラキドン酸産生を抑制するPhospholipase A2,C阻害薬で標本を前処置すると、膜電位回復が見られる一方、広域に作用するcyclooxygenase、あるいはlipoxigenase阻害薬には細胞膜保護作用が認められず。アラキドン酸ファミリーには虚血負荷終了後の神経細胞機能に対し保護効果を示すものと不可逆性変化を促進するものとが混在することが示唆されたため以下の実験を行った。 1 アラキドン酸カスケードの産物であるプロスタグランジン(PG)の内PGD_2,PGE_1,PGE_2,PGF_<2α>,あるいはPGI_2作動薬のCiprosteneを前処置して虚血負荷を与えると、約6分後に急峻脱分極電位が発生し、直ちに正常人工脳脊髄液を再灌流しても膜電位の回復は見られなかった。 2 Cyclooxygenase1阻害薬(resveratrol)、cyclooxygenase2阻害薬(Dup-697)、あるいは12-および5-lipoxygenase阻害薬(3,4-dihydroxyphenyl ethanol)前処置では膜電位回復は見られなかった。しかしながら、thromboxaneA2阻害薬(OKY046,CV4151)前処置では有意に膜電位回復が認められた。 3 Free radical scavenger(edaravone,α-tocopherol)前処置では有意に膜電位回復が認められた。 以上のことから、cyclooxygenaseおよびlipoxygenaseがアラキドン酸からPGおよびロコトリエンを生成する際に発生するfree radialが虚血負荷終了後の神経細胞機能の不可逆性変化に関与し、アラキドン酸カスケードの産物であるthromboxane A2が不可逆性変化を促進すると考えられた。
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