研究概要 |
1.診察時に撮影可能な限られたMRI断層撮影像から,顎関節コンポーネントのサーフェースモデルを構築し,各コンポーネントの有限要素参照モデルに基づく,顎関節の患者個体別有限要素モデルを構築する基本的方法論と,臨床サイドでの利用を目指したモデリングシステムを示した. 2.開口ならびに閉口時のMRI断層像における下顎頭コンポーネント位置より,下顎頭の典型的な運動経路を決定し,顎関節力学状態の計算バイオメカニクス解析のための基本的な負荷条件を決定する手順を確立した. 3.関節円板の一時的な前方への移動を伴う開口運動時には,正常な顎関節では関節円板の内外側,とくに前方内側に高応力域が見られた.これに対して,円板前方転位顎関節では,元来関節円板が位置すべきところの結合組織が相対的に高い応力を示し,この部位で観察される結合組織の硝子化は,このような力学的機能分担の変化に対応するものである可能性を示唆した. 4.円板前方転位顎関節では骨コンポーネントと関節円板の空間的は位置だけでなく,軟組織における応力再配分及び下顎骨運動に伴う円板の移動が大きく異なる.さらにそのふるまいは,関節円板の力学特性だけでなく,円板後方結合組織の力学特性に強く依存し,これまで知見の少ない結合組織の力学試験の重要性を示した. 5.個体別モデリングによる解析の結果,正常顎関節においては,開口運動に伴う関節円板の前方への移動は関節円板の力学特性に依存することが明らかとなった.これに対して,関節円板が前方に転位した顎関節においては,開口運動に伴う円板の前方への移動は,パーマネントに前方転位した円板の後方結合組織の力学特性に依存した.これにより,開口運動による関節円板の前方への移動を,MRI観察と計算生体バイオメカニクス解析の両者から考察することで,関節円板あるいは円板後方結合組織の力学特性を推察することの可能性を示した.
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