本年度は、前年度に引き続き資料の収集と唱歌の分析、唱歌の旋律の基礎をなす音組織の考察を中心に研究をすすめた。資料の収集は、引き続き宮内庁書陵部に架蔵される雅楽関係の資料の調査・収集に力点を置いた。その中で、近世までの伝承を継承しつつ、新たな時代に則して雅楽の伝承の総体を体系化して記述した文献の嚆矢である明治初期の『音楽略解』を複写で収集し、その資料的価値の吟味や分析を行った。そして、当資料は、歌物の旋律の記述に独自の方法が提示されるなど興味深い資料であること、近世末の伝承の実態を具体的に捉える上で重要な資料であることなどを確認した。唱歌の分析は、前年度に収集した現行の龍笛唱歌(芝祐靖『龍笛の唱歌と演奏』)の録音資料をMDに類別して整理し、体系的な分析を行い、旋律法と仮名の活用法の関係、唱歌の旋律と実際の龍笛旋律の間の差異などについての考察を進めている。また、現行伝承と昨年度収集した京都方大神家の唱歌譜『龍笛仮名譜』に示された唱歌では、仮名の活用法に明確に相違があることを確認した。現行・大神流のいずれの唱歌の体系も内部構造は一貫している。現在、それらを比較しつつ体系的な整理を進めている。また、唱歌の旋律の基礎をなす音組織については、前年度から継続して考察している壹越調の調子構造に関する私見を「壹越調に混在する二つの調」という論考でまとめた(『日本伝統音楽研究』1、2002年予定)。壹越調は装飾音の一である「由」の音程が一部変化することによって、一見二つの調が混在しているような独特の構造を現出している。しかし、一見難解な構造も上記の視点を用いて理解することによって音組織の把握は容易になると考える。
|