西洋美術史において芸術家とパトロンの関係に対する研究はきわめて今日的なトピックとなっているが、日本美術史研究においては公家や大名のそれについては先学があるものの町衆階級に関してはあまり例がない。本研究では、この点に関して18世紀後期の絵師円山応挙とその有力な庇護者である三井家との関係から制作された作品群の検証を行う。上記研究目的を達成するため、国内外の美術館・博物館および個人所蔵の三井家旧蔵になる円山応挙作品の実見調査と写真撮影を行う。 平成13年度中には、文献にわずかに記されるのみであった三井家よりイタリアへの美術品寄贈について調査を行った。これは、1962年にローマの中近東研究所(ISMEO)に日本部がないので所望されたものだが、これまでその内容は全く不明であった。国内での事前調査でこれらが現在ローマ東洋美術館の所管となっていることを確認し、同館の協力を得て資料調査を行った。この資料は同館においても未整理だったものだが、このたびの調査において品質等についての意見交換をし、今後は改装された日本展示室に出陳されることとなった。結果として、収集家、寄贈者としての三井家に関する同館での認識を深めることができたのは、本研究にとって大いに意義のあるところである。また、国内では応挙生誕地の実査のほか、寺院での特別展観に赴いた。研究成果の公表としては、円山応挙遺印(三井文庫蔵)の伝来・形状を精査し論文「円山応挙遺印研究」『河合正朝先生還暦記念論文集』(2002)に発表した。
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