研究概要 |
本研究の目的は、日本語話者の英単語想起に伴い出現する空書行為における脳神経活動を明らかにすることであった。この点について明らかにするため、英単語想起の神経基盤について探った。特に、独立の音韻カテゴリを持たないために、日本語話者にとり視覚的想起・再認が困難な、"l","r"音節の想起時の神経活動について、fMRIによる脳画像解析により検討した。具体的には、英音節の視覚的記銘・再認課題(l/r working memory task)を行わせ、"l","r"音節記銘・再認課題時の脳賦活パタンを、"n","b"(l/r vs. n/b experiment)あるいは"n","d"(l/r vs. n/d experiment)の場合と比較した。fMRIの撮像データは、SPM99により処理及び統計解析を行った。 分析の結果、l/r vs. n/b Experiment, l/r vs. n/d Experimentともに、l/r conditionにおいて、右上頭頂小葉(SPL; BA 7)及び中前頭回(MFG, BA9/46)にn/b condition、n/d conditionよりも強い賦活が見られた。SPL及びMFGは、視覚情報の保持・操作、またMFGは特に注意の制御に関連の深い部位であることが明らかにされている。本実験で得られた脳賦活パタンは、日本語話者が"l"や"r"音節に対応する音韻カテゴリを持たないため、これら英音節の視覚的記銘・保持に音韻処理よりも視覚処理を利用したこと、またそのような偏った記銘再認方略を採ったことで、より注意が要求されたことを示唆している。本研究は、従来経験的に述べられていた日本語話者における"l"や"r"を含む英単語の記銘の困難さについて、脳賦活パタンの相違という点から神経学的に裏付けるものである。
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