研究概要 |
平成13年度は,12年度の損傷患者を対象とした神経心理学的アプローチによる研究に引き続き,脳機能画像を用いた虚再認(false recognition)のメカニズムに関する研究を行った.虚再認とは,実際には経験していない事象に対して,誤って「経験した」と判断してしまう現象を意味する.前年度の研究から,虚再認は前頭葉の担う認知機能と深く関連していることが示された.そこで,本年度はfMRIを用いた脳機能画像研究によって,虚再認と前頭葉機能の関係をさらに詳しく検討した. 本年度の実験で用いた課題は,前年度と同様,Roediger&McDermott(1995,JEP:LMC)の考案した虚再認パラダイムの修正版である.このパラダイムでは,まず意味的に関連する十数語からなる単語リストを数多く用意し,それらのすべてを覚えるように被験者に教示し,学習させる.次いで再認課題として,学習段階で提示した単語や提示した単語と意味的に類似するが実際には提示していない単語などに対する再認反応を被験者に求める.今回の実験では,テスト段階においてスクリーンに提示する2つの単語に対する再認判断を反応ボタンによって検出した.健常者11名に対して,まず学習段階を行い,テスト段階でスキャンを行ない,脳賦活状態について分析した.装置として用いたのは,1.5T MRIであり,EPIによる撮像を行なった.分析には,SPM99を用いた. 各条件の再認時における賦活について分析した結果,正答率が低いことから"難しい条件"と考えられる条件において,他の条件よりも多くの賦活が認められた部位は,右前頭前野下部であった.この部位は眼窩部と近接する前頭葉の下方に位置する領域である.今回の結果から,眼窩部を含む前頭葉の下部領域が,"難しい条件"で特に要求される"文脈判断と類似した過去経験の想起"に深く関与している可能性が示唆された.
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