研究概要 |
本研究の目的は,外傷体験を話して開示することが心身の健康に及ぼす長期的効果を,従来の方法論を再検討して検討すること,開示の健康増進効果のうち時間的経過の成分を検討することであった. 外傷体験を有する健常大学生が,外傷体験を開示する開示群,情動的覚醒を喚起しないと思われる中性的な話題を開示する統制群,何ら開示手続きを行わずアセスメントのみを受ける未介入群とに無作為に配置された.従来行ってきた手続きと異なり,被験者は他者に開示するという事態を想定し,一人で話して開示するよう求められた.精神的健康の測度は,外傷体験の重症度の指標として苦痛度とImpact of Event Scale-revised(IES-R),全般的な精神的健康の指標としてGHQ-28,身体的健康の測度は,身体徴候経験頻度を測定するPILL,医師訪問回数が用いられた. 群(外傷体験開示群,中性話題開示群,未介入群)×測定時期(プリアセスメント期,3ヶ月フォローアップ期)の分散分析が行われた.苦痛度に関して,外傷体験開示群と未介入群では,得点が有意に低減していた.IES-Rに関して,全群で得点が有意に低減していた.全般的精神健康に関して,外傷体験開示群では増大していたが,未介入群では低減していた.3ヶ月フォローアップ期において,外傷体験開示群は他の群よりも有意に高かった.PILLに関して有意な効果は無く,医師訪問回数に関して全群で回数が増大していた. 他者想定法を用いることで身体的健康が増大することが期待されたが,認められなかった.一方,全般的精神健康度に関しては増大することが認められた.また,外傷体験の重症度の低減に時間的経過の要因も寄与していることが示唆された.更なる方法論の洗練と効果発現機序に関する理論構築が今後の課題である.
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