研究概要 |
平成13年度は前年度に続き、資料収集とその分析によって、次のように研究を総括した。 1.終戦直後における音楽教科書取扱いの実態を分析するとともに、文部省著作音楽教科書と戦時期音楽教科書の比較分析を行った。(1)その結果、「墨塗り」措置の中で特徴的なことは「儀式唱歌」が全国的に残存されていたことであり、しかしながら暫定教科書には不掲載となった経緯を確認した。同様の教材が他教科では修正削除されていることからすれば、このことは当時の天皇制に対する曖昧な姿勢を反映するとともに、儀式の場で一斉唱する活動が、集団統合、思想教化の場として特化した機能を有していたことを示すものであった。(2)また二つの教科書は芸術性の追求、あるいは児童の自己表現や人格形成といった理念に対して対照的な立場にたつものの、双方ともに児童の発達段階への配慮や音楽的内容の深化において相応の発展があったことが検証した。政策理念が異なっても、教材や日々の指導は一定の普遍的原理があり、そのことが変革時の実践に対する自己批判、社会的意味づけを困難にする土壌形成の一因をなしていることを実証的に明らかにした。 2.1940年代後半から1950年代半ばまでの音楽科を中心としたカリキュラム編成及び学習指導構成の変遷を資料や聞き取りをもとに検証した。その結果、1950年前後にいくつかのバリエーションをもったコア・カリキュラムプランが多く作成され、1951年以降は次第に教科カリキュラムヘと変移していったこと、また音楽科内の学習指導構成においても1950年前後に「単元学習」として単元を用いた学習指導構成が積極的に試みられたものの、1952年以降その形骸化が批判され、次第に消失していった経緯を確認することができた。学習指導構成の単位は楽曲教材であり、「正しく歌唱」するという原理に基づくものであった。「正しく歌唱」するということは礼法、朕、,集団統合、音楽表現の礎といった理念を裏付けとする歌唱教育の基本原理であり、日本の音楽文化変容の過程における学校音楽教育の関わり方を示す鍵概念としての意味をもつことを明らかにした。
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