研究概要 |
昨年度の夏に、大英図書館所蔵の手稿書簡のなかの一部を読んでくることができたことは、今年度の研究の進展にとっても重要な意味をもった。特に注目したMary Jacksonからの120通にも及ぶLady Spencerへの手紙を素材に、2002年1月に英国で行われたThe British Society for Eighteenth-Century Studies, 31^<st> Annual Conferenceにおいて研究成果を発表する機会に恵まれた。そこでは、Lady Spencerのチャリティーの対象であったJacksonの自己表現のしかたと当時流行していた文学作品の文体の間の関係についての考察を述べ、活発な反応を受けた。これについて論文として出版する準備を進めている。 発表した論文としては、Oliver Goldsmithのフィクションを題材にし、流行していたセンチメンタルで女性的な示し方とは一線を画する主人公の慈悲心の表し方に注目して、18世紀の慈善というものの捉え方を考察する論文('The Vicar of Wakefield and Benevolence')、翻訳書出版のために一種のパトロネッジの恩恵を受けた二人の女性(Elizabeth Carter, Sarah Fielding)について、助言を与えた人々の役割と協力の成果物としての書物の性質についての考察('Mentors' Help and Learned Women')があり、前書きや作品自体に表れている作者の不安や過剰なまでの読者の読み方への注意を、直接的な影響力を使って守ってくれるパトロンの記憶と影を十分に意識しながら、敢えて未知のパブリックに呼びかけていくことを選んだ作者の覚悟のあらわれであると解釈した論文('Sarah Fielding and Reading')の掲載が決まっている。
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