研究概要 |
情報構造は文法の一部門であり,文の統語形式を決定する要因の一つである.本研究はイディッシュ語がポーランド語との接触において受けた文法変化とその背後にある規則性を考察することが主眼である.平成13年度は,前年度に収集・整理したイディッシュ語の資料を現代の語用論研究の視点からさらに分析をおこない,統語論と語用論との対応関係に関して得られた知見の理論的な意義を考察した. 平成12年度の研究においてはイディッシュ語の従属節における主語動詞倒置構文の分布を中心に扱ったのであるが,今年度は,この言語における統語的有標構文の分布をより包括的に理解するために,まず,調査の対象に主節も加えて新たなデータの集積をおこなった。次に,このデータに基づいて,統語的有標構文に関する最近の語用論的研究の検証をおこなった。検証作業は未だ完了していないが,経験的にも妥当性が高く,理論的にも有力であるという理由から,構成素の情報的価値に基づく分析と統語的重量に基づく分析を取りあげ,現在も進行中である。その成果の一部は,2001年12月に筑波大学で開催されたワークショップ「次世代の言語研究II」において発表されている。 本研究は,今までのところ,イディッシュ語の資料に基づたかぎりの一般化であるが,有標語順の分布と機能は構成素の情報価を考慮に入れなくては説明できないという結果が出ている。一方,ポーランド語の有標語順に関しては,国外の研究者によって統語的重量に基づいた分析が提出されている。このような状況のもとで,上記のような手順に従って,イディッシュ語とポーランド語の比較研究を進めていくことは現代言語研究にとって有益な知見をもたらすものと考えられる。本研究におけるポーランド語の分析はイディッシュ語の分析に比べると立ち遅れているが,今年度以降も引き続き調査・研究をおこない,本科学研究費助成金の成果として公表に努めていくつもりである。
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