研究概要 |
本年度は,法と経済学に明るい法学者や経済学者を北大に招いて研究会を開催するなど,取引と法の関係について知見を深めつつ,具体的な論点について成果を公表するために以下のような作業を進めた。 第一に,クリックオン契約による著作権法の公序のオーバーライドの論点については,アメリカ合衆国で契約による価格差別理論によりオーバーライドを正当化する見解をめぐって論争が起きている。そこで,市場と法の役割分担という視点から,これを紹介する論文を執筆した。幸い,秋の法哲学会で関連する報告をなす機会に恵まれた。次年度発行予定の法哲学会年報に論文が掲載される予定である。 第二に,ビジネス・モデル特許やヒトゲノム関連特許など,特許発明の定義に関して自由や公序の問題が意識されはじめている。そこで,こうした動きを,20世紀初頭のドイツのコーラーが特許発明の定義規定にこめた自然と法の区別という視点から再検討することを促す論文を発表した。具体的には,自然法則の利用という特許法の発明の定義の趣旨を付度すれば私人の自由を過度に害する特許の出現を防ぐことが可能であること,くわえて,産業上の利用可能性の要件を活用して,過度に抽象的であるために市場に悪影響を与えかねない特許の出現を拒み得ることを指摘した。 第三に,これらの成果を踏まえて,MP3の問題,コピープロテクションの問題,インターネットの問題をも扱う著作権法の体系書の改訂版を著した。執筆に際しては,著作権法の第三の波という標題の下で,インターネット等の新らしい技術や社会的環境と依然として複製禁止権を中心とする著作権法の齟齬に光を宛てることを心掛けた。
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