研究概要 |
1 各論的知見 個別的な紛争領域におけるADRのあり方や現状についての研究領域は多岐にわたるが,中でも,(1)医事紛争,(2)著作権等紛争,(3)多重債務・倒産事件については,それぞれ研究集会をもち,私自身の報告も行なった。そこで得られた知見の一つとして,ADRの中立性をどのように捉えるべきかという問題を挙げることができる。例えば医事紛争や多重債務紛争においては,当事者間の力や情報量の格差が大きく,ADRが消極的中立性を保つ限り,紛争の適切な(社会的に見て妥当な)解決を導くことは困難である。結果として,日本の現状ではADRが後見的な役割を果たしているが,その妥当性や相手方への説得可能性については,理論的には疑問が残る。 2 総論的知見 総論的には,大別して,(1)比較ADR論,(2)ADR間ネットワークの問題,(3)ADRと裁判制度の関係,(4)ADRと地域コミュニティの関係,(5)ADR基本法(仮称)立法の課題,といった分野で研究活動を進めた。(1)に関しては,ヨーロッパ諸国での研究・報告・議論を踏まえて,弁護士など専門職種によるゲートキーピングのあり方が紛争の顕在化の流れに大きく影響することが明らかとなった。また,(5)とも関連して,ADR基本法の具体化も試みた。(2)については,司法制度改革審議会意見書を踏まえ,岡山地域司法計画の一環として,より踏み込んだネットワーキングのあり方について提言した。すなわち,法律相談のネットワークへの組み込みと,有機的なADR連携である。(3)については,これも(5)と関連するが,ADRと裁判所間の情報交換をいかに規律するかが大きな問題となること,また,手続的規整を契約論として考えるべきことが,次の課題として明らかとなった。(4)については,地域コミュニティの代表として制度設計されたはずの民事調停委員を対象として,その変遷を分析した。
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