文明社会論を展開したスコットランド学派は、現在、「富と徳」という分析枠組みにしたがって、古代の共和政の政治学を批判し、近代の経済学を形成した思想潮流と解釈されるのが通説である。本研究は、同学派における古典古代以来の政治学の継承に着目することでこの理解の一面性を明らかにした。 1同学派は、商業や奴隷制の観点から古代世界を批判したが、古代への態度は両義的であり、特に、共和政ローマの栄光と没落の原因に多大な関心を払っている。彼らは、古代の文献を研究の素材とするという意味において、広義の人文主義的方法を継承して社会科学を展開している。また、歴史叙述の方法において、古代ローマ人の「哲学的歴史」は、彼らにとっても依然として範例的位置を占めていた。 2同学派の文明社会論は、ヨーロッパ政治学の伝統的認識に依拠し、ヨーロッパ的政治社会とアジア的政治社会との対比を、時間軸を組み込みながら発展させたものである彼らにとって、civilized societyはcivil societyにほかならないが、これは、古代以来のヨーロッパ政治学におけるsocietas civilis論の継承である。主人と奴隷の支配関係ではない政治社会のあり方を探求した彼らは、古代政治学がヨーロッパ政治社会の特徴と見なした政治や公共性の観念や、人間が社会的動物であるという人間理解を継承している。
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