本年度の研究では、前年度の研究成果である買収による直接投資の理論モデルを応用することによって、国際的な企業の投資活動に対して受入国の税や補助金政策がどのような影響を与えるかについての実証研究を行った。この研究で用いたモデルの重要な仮定は、直接投資は資産の所有権の獲得であり、対内直接投資が必ずしも受入国の実物資本ストックを増加させないというものである。このような設定では、経営資源などの企業特殊要素を移転させるインセンティブが直接投資の決定に影響を与え、直接投資によって生産性を向上させる特殊要素が移転されると受入国の実物資本ストックが増加することになる。したがって、受入国において歪みを与えるような企業誘致政策がとられた場合には、直接投資は受入国の資本ストックを減少させる可能性がある。 このモデルの結論について、66カ国についての1982年から1996年までの資本ストックと直接投資のデータを用いて検定を行った。その結果、1%の直接投資の増加は受入国の資本ストックを6パーセント程度増加させるという結論が得られた。しかしながら、データをいくつかの地域グループに分けて同様のテストを行ったところ、地域によっては必ずしも直接投資が受入国の資本ストックを増加させていないことも明らかになった。 これらより、直接投資は受入国の技術に影響を与えるという仮設は受容された。しかし、誘致政策によって技術力が低い企業にも直接投資が可能となるため、国内企業の投資に対してマイナスの影響をもつ可能性があることも明らかとなった。したがって、本研究から得られた政策的な含意としては、先進国からの技術や資本の移転を目的とした補助金政策は必ずしも望ましくないということが挙げられる。
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