研究概要 |
本研究では,世代重複モデルに年金制度を導入した4つのタイプのモデル(開放経済モデル,閉鎖経済モデル,王朝モデル,内生的成長モデル)を用いて,消費税による年金財源調達が世代間に及ぼす経済厚生上の利益・不利益と,全世代を通じた利益・不利益について考察した.消費税による年金財源の調達は,ライフサイクルでみた税負担を,若年期から老年期へとシフトさせる.その結果,利他主義による遺産や贈与が存在しない場合(王朝モデル以外のケース),経済全体の貯蓄を増加させ,資本蓄積を促進する効果を持っている.従って,将来世代は,社会保険料から消費税へ年金財源の調達ベースが切り替わった場合,一般に経済厚生が改善する.しかし,それは同時に,切り替え時の高齢世代に,消費税引き上げによる負担を課すという杜会厚生上のコストを伴っている.賦課方式から積立方式への変更に伴う,いわゆる「二重の負担」とは逆の所得再分配である.本研究の分析では,内生的成長モデル以外の場合では,将来世代の利益は切り替え時の高齢世代の不利益によって相殺されるため,全世代を通じたパレート改善を消費税による年金財源の調達で達成することは不可能であるという結論が得られた.その意味では,消費税シフトは純粋に世代間再分配的であり,効率性改善の効果は望めないといえる.しかし,経済成長率が資本蓄積に依存して加速的に上昇する場合には,高齢世代の不利益を補って余りある利益が将来世代にもたらされる.消費税シフトの是非は,望ましい世代間所得分配のあり方と,経済成長率の決定要因に関する実証分析によって判断されることになる.
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