教育の経済学的分析は主に人的資本理論に基づいて行われ、それによって経済成長や所得分配の理論に貢献してきた。しかしながら一方では、このような理論的成果は義務教育水準では適合するが高等教育に対しては必ずしも適切ではないとの批判も存在している。したがって本研究では過去の理論的研究結果をふまえて研究対象を大学教育に拡大し経済モデルを構築した。その際、特に考慮した大学教育における特徴は(1)大学が担う教育と研究の役割(2)プレステッジの存在の2点である。それによって得られた結論は次のようである。まず、(1)を考慮したことにより、大学教育への公的支出は研究活動を通じて知識を生産するための人的資本の生産パラメータが、教育活動を通じて人的資本を生産する生産パラメータよりも大きければ、経済成長を促し社会厚生を高めるという結論を得た。また、(2)を考慮することによって18歳人口の減少が与える影響は大学全体に平等に及ぶものではないことが理論的に明らかになり、任意の時点で設立された大学は、プレステッジの高い大学ほど高い質の教育サービスを高い授業料で提供し、プレステッジの低い大学はその逆になるという結論を得た。さらに受験生が急に減少するとプレステッジの高い大学の質と授業料は一時的には低下するが、長期的には元の水準に戻ろうとする。それに対してプレステッジの低い大学の質は短期的にも長期的にも低下し、授業料はますます下落するという結論を得た。 上記の研究成果は2000年度の日本経済学会秋季大会(於:大阪府立大学)および2001年度の日本経済学会秋季大会(於:一橋大学)等において報告を行った。
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