研究概要 |
本年(平成13年)度に行った研究は以下の通りである. すなわち,技術発展メカニズムおよび企業の技術開発戦略に関わる既存の文献,および企業・技術・市場情報データベースの利用によって,本調査研究が対象としている撮像技術の電子化に関わる企業の技術開発状況並びに事業成果について調査を進め,これら企業のいくつかについてより踏み込んだ情報収集を試みた.具体的には,産業レベルの技術革新と個別企業内部の技術開発活動に関わる意志決定との諸関係について,エレクトロニクス・メーカーのM社,T社,H社,C社,光学機器メーカーのO社,F社を対象として,構造化された詳細な聞き取り調査を行った.調査対象は,技術開発に関与する技術者たち,および組織内部で意志決定権限を持つマネジャーたち(主として部長,事業部長,担当取締役)である. 新技術の事業化に至る長い過程で他の様々な技術との関係について再考が重ねられてきたこれら6社の事例研究から得られた諸知見,および申請者がこれまでに蓄積してきた研究成果を基盤として,複数の技術が複雑な相互依存関係を持つ現代の技術発展と,技術開発戦略,事業成果の関係を分析するための鍵概念の抽出と,その説明経路・仮説の構築を試みた. 本調査研究から導出された最も重要な仮説命題群は,次の通りである.1.戦後日本で開発された新技術の大半が事業化に至らず各組織に埋没している.2.市場取引の頻度が小さい新技術導入の時期には当該技術の有用性,市場性を客観的なデータで示すことが難しい.3.そのため技術開発活動の正当性を確保し,資源動員するために他のなんらかの理由づけが必要になる.4.当該技術開発の正当性を高める1つの重要な要因は既に産業として成立している他技術システムとの関連性である.5.米国の技術発展メカニズムと日本のそれとは構造的に異なっており,事業領域の「選択と集中」に典型的な米国の安易な模倣は日本の長期的な技術発展を却って停滞させる可能性があるかもしれない.
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