研究概要 |
正方格子上の(適合的な)ランダムウォークが時刻nまでに訪問した点の個数の大偏差原理に関しては,そのLaplace変換の漸近的な挙動が知られていたが,近年,大偏差原理が部分的に解決された.それは訪問点の個数がxn以上となる確率の指数的な挙動を調べることから得られる.そこではその確率の自然対数をnで割ったものが収束することを示した. 訪問点の個数の精密化として多重点の個数を考えることができが,訪問点の個数のときには得られていたLaplace変換の漸近挙動も得られていない.しかし,自由エネルギー関数の存在自体は訪問点の個数の場合と異なる手法を用いて証明することができる.そのような状況ではあるが,大数の法則が確立されていれぱ大偏差原理を考えることができ,若干の差はあるが訪問点の個数のときと同様の手法を用いることにより,ランダムウォークが時刻nまでにちようどp回だけ訪れた点の個数がxn以上となる確率の自然対数をnで割ったものが収束することがわかる.しかしその極限がxの関数として自明でないことを得ることはできなかった.自明であるかもしれない可能性を認めれば,大偏差原理は部分的には肯定的な結果を得ることができる.しかし公表に耐え得る水準の結果ではないと判断し,公表することは見送ることにした. 一方,ランダムウォークの訪問点の個数の連続対応であるWiener sausageに関しても,同様のことを考え同じ結果を得ている,さらに最近公表された結果とあわせることにより,Wiener sausageの場合の大偏差原理は完全に解決されることになる.大偏差関数の存在と非自明,および凸性はわかるもののその具体形はわからない.大偏差関数が凸であることより,これは自由エネルギー関数のLegendre変換と一致することがわかっているので,自由エネルギー関数を求めることと同じである.Wiener sausageについて自由エネルギー関数の具体形を求めるべく研究を重ねたが結果は得られなかった.
|