研究概要 |
3次元領域でのストークス問題の安定化有限要素スキームを用いたソルバーの構築を行った.開発したプログラムコードは次の数学的特徴をもつものである. (1)計算対象の領域がある対称性を持つ場合,各部分領域が参照領域を直交変換と平行移動で移したものであるように領域を分割することが可能である.さらに,この直交変換を表す行列の成分が-1と0および1からのみ成る場合,効果的なアルゴリズムを得る.剛性行列は領域全体で構成し,記憶する必要は無く,ベクトル値関数の座標変換による符号の修正を行うのみで,1つの参照部分領域での剛性行列を複写することで構成できる.このため,行列成分の記憶のために必要なメモリー容量を大幅に削減できた.また,連立方程式の反復解法で本質的な行列ベクトル積演算において,参照領域の行列要素に対して,部分領域毎のベクトル成分との掛け算をまとめて行うことで,計算機の持つキャッシュメモリーを活用し,演算の高速化を実現するアルゴリズムを構築した. (2)有限要素法では本質的境界条件や剛体回転などの線形拘束は関数空間の制約として取り扱う.制約付空間での弱形式の離散近似によって得られる有限要素方程式は,全節点自由度の空間からの制限を実現する正射影を用いて統一的に表現でき,正射影付きクリロフ部分空間法によりその解が求められることが分かった.これにより,線形拘束を課す関数空間での複雑な有限要素基底を構成する必要がなくなり,プログラムコードが簡略化された. (3)ストークス方程式の有限要素剛性行列は不定値対称行列あり,正,負,零固有値を含む.クリロフ部分空間法の代表的解法である共役勾配法は,正定値対称行列の解法に広く用いられるが,ストークス方程式から得られる連立方程式に対しても解を求めることができ,ほとんどの初期値に関して破綻しないことを示した.安定化有限要素法による離散化で得られるストークス方程式の剛性行列に対して,不完全コレスキー分解による前処理付の共役勾配法が高速な解法であることを数値実験より確認した.
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