研究概要 |
本年度は,非線形波動の時空大域解析を汎用化する目的で二つの方向から研究を行った。一つは非線形Klein-Gordon及びSchrodinger方程式に関して,非相対論極限の観点から二つの方程式を統合することで理論の発展を図るとともに,物理学でのこの種の特異極限に関して,特に大域的な極限移行に,数学的根拠を与える事である。二つ目は,エネルギー分布の観点からの解析が未開発な,低次幕の非線形項を持つ方程式に関して従来の重みつき空間における解析の再検討と整備である。 第一の研究の成果としては,二つの方程式の時空大域解析を完全に統合し,結果として,非相対論極限における解のエネルギー強収束,時空ノルムの一様大域評価などを得た。当研究の目標からして特筆すべき事は,正負電荷が混在する場合においては質量エネルギーを繰り込む手段がないにも拘らず,中間的近似方程式の大域解析を経由する事で非相対論エネルギーの一様有解性を得たことである。時空大域解析の弱点は,鍵となる三種の先験評価が方程式に強く依存する事だが,ここでは先験評価が得られない状況で大域解析に成功しており,さらなる発展が期待される。ただしSobolev臨界指数の場合は未解決であって今後の重要な課題である。 第二の研究の成果としては,非線形Schrodinger方程式に関して,時間減衰を取り扱うには従来の時空Lebesgue空間よりも,時間に関して(p,2)型Lorentz空間を用いた方が良い事を見出し,それによって重みつき空間でのStrichartz評価とソボレフ空間での同評価が完全な対称性を顕わす事を示した。結果として大域解の存在や散乱理論をいくつかの臨界的な場合へ拡張したが,時空大域的解析との統合は今後の課題として残されている。
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