研究概要 |
これまでの研究の中で代表者は,楕円曲線上で定義された2階のフックス型方程式のモノドロミー保存変形を楕円曲線の複素構造をも動かしつつ考察して,そのような変形を記述する方程式系を明示的に書き下すことに成功していた.今年度はそこで得られた方程式系のうち最も簡単なもの,具体的には楕円曲線の複素構造を記述する(上半平面内を動く)変数だけを独立変数とする微分方程式(以下では方程式(1)とよぶ)が,パンルヴェVI型方程式のマニンによる表示の特別な場合にほかならないことを見出した.これは,パンルヴェVI型方程式がリーマン球面上のフックス型方程式の変形から得られるものであることを思い起こすと,方程式(1)が記述する楕円曲線上のフックス型方程式(以下では方程式(2)とよぶ)の変形が何らかの形で,リーマン球面上のフックス型方程式の変形に帰着されることを示唆していると考えられるが,そのことの幾何学的な理由についても考察した.方程式(2)は見かけの特異点1個と一般の特異点1個をもつものであるが,そのうち一般の特異点における特性指数を見かけの特異点におけるものと同じになるように変更し,そのかわりにこれら2点を入れ替える楕円曲線の対合写像の4個の不動点において、適当な特性指数の確定特異点をもつようにした新しい方程式(3)を考えよう.するとこれは楕円曲線の対合写像で不変な方程式となり,したがって(3)のモノドロミー保存変形は実質的には楕円曲線の対合写像による商空間であるリーマン球面上の方程式の変形,より具体的には特異点の性質と個数から,パンルヴェVI型方程式(のパラメータが特別なもの)を記述することがわかる.さらに,ワイエルシュトラスの楕円函数のみたすある等式に着目すると,(3)の変形を記述する方程式系と(2)の変形を記述する方程式系が実はまったく同一のものとなることがわかり,結局方程式(2)の変形からパンルヴェVI型方程式が現れることの一つの説明が得られたことになる.
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