近年、遠赤外・サブミリ波領域での天体観測が天文学において非常に重要であることがわかってきた。本研究は、この波長域ではこれまでになかった周波数可変コヒーレント光源を開発し、これを局所発信器とする天文観測用ヘテロダイン受信機の構築を目指すものである。遠赤外・サブミリ波の発生には、光伝導素子を用いたレーザー差周波発生法を用いた。これは、サブピコ秒の光応答を示す低温成長ガリウム砒素の光伝導素子に、2つの違った波長をもつレーザー光を照射すると、差周波数(うなり)の光振動電流が発生するため、これをアンテナに結合させて電磁波として空間に取り出すというものである。必要となる開発要素は、2波長発振レーザーと超高速光伝導素子である。開発実績は以下のとおり。 1.2波長発振レーザーの開発 (1)波長850nm帯の半導体レーザーを導入し、2波長混合光学系を構築した。 (2)波長可変性と光パワーを測定し、差周波発生に充分な性能を持つことを確認した。 2.超高速光伝導素子の開発 (1)無波長依存型アンテナと共振型アンテナを持つ低温成長ガリウム砒素デバイスを考案・作成した。 (2)光感度や波長感度特性などを測定し、差周波発生に充分な性能を持つことを確認した。 3.サブミリ波発生実験 上記の2波長レーザーとデバイスを用いてサブミリ波の差周波発生実験を行った。4Kボロメータを用いて出力を測定した結果、周波数400GHzにおいて約20nWの出力を得ることができた。 上記の出力は目標値の数10分の1程度のレベルであるが、光学系の調整が充分でないことやデバイスの光応答が期待したよりも遅いことが原因と見られる。今後、光学系効率の向上を図るとともにデバイス形状を最適化することにより出力の向上が期待できる。また、現行のものよりも1桁程度の出力向上が見込まれる新案のデバイス製作と評価を行う予定である。
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