研究概要 |
申請者が発見した希土類金属間化合物Ce_3SnCは多段メタ磁性転移、俗にいう悪魔の階段と呼ばれる、磁化過程が階段状の振る舞いを示す物質である。本研究では、この多段メタ磁性転移の起源を探るために、圧力、磁場下での電気抵抗、比熱測定を行い、圧力相図、磁気相図を作成し、また中性子回折、中性子非弾性散乱の実験を行い磁気構造、結晶場分裂準位の決定を行うことを目的とした。 Ce_3SnCに関しては圧力相図を決定し、中性子回折実験による磁気構造の決定を行った。その結果、立方晶の面心に位置するCe原子はフルモーメントに近い2μ_Bを有しているが、各々の磁気モーメントは各格子面上のa軸方向を向いていることが明らかとなった。つまり、磁気モーメントの配列に90度構造が存在する特異な磁気構造を持つ。上記のような磁気構造をとる理由は中性子非弾性散乱実験により明らかにした結晶場分裂の観測によって説明することが可能である。実験結果は立方晶の面心に位置するCe原子は正方対称の結晶場を受けていることを示しており、結晶場準位の分裂幅からその影響が大きいことも分かった。つまり、結晶場の主軸が各々のCe原子によって違うことにより、磁気モーメントは磁化容易面である格子面上に束縛された結果、上記の磁気構造をとると考えられる。 また、本研究遂行中にCe_3SnCと同様の結晶構造をもつCe_3PbCにおいても、同様の多段メタ磁性転移を新たに観測した。両者の磁気構造の違いを明らかにするために、中性子回折実験および中性子非弾性散乱実験を行った。Ce_3PbCもCe_3SnCと同じくCeは強い正方対称の結晶場を受けていることを明らかにした。磁気構造に関してはCe_3SnCよりも複雑で、高温の常磁性状態からT_N=8.4Kで伝搬ベクトルq=[1/2,1/2,0]をもつ反強磁性構造が秩序化したのち、T_t=6.0Kで伝搬ベクトルq=[0,0,1/2]をもつ磁気構造が、先に秩序化した磁気構造に何ら影響を与えることなく秩序化し、double-q構造をとることが明らかとなった。つまり、低温では磁気的に互いに独立な磁気構造の重ね合わせで表すことができる。 このように、Ce_3SnCとCe_3PbCは複雑な磁気構造を有していることを本研究では明らかにした。両物質が示す多段メタ磁性転移は、この複雑な磁気構造を反映したものと考えられる。
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