研究概要 |
スピネル型構造をもつ硫化物CuIr_2S_4は、約230Kで結晶構造の変化を伴う金属-絶縁体転移を示すことが知られているが、この物質の低温における結晶構造や相転移の機構は未だ明らかにされていない。今回、この物質の低温における結晶構造を明らかにするために、放射光を用いた高分解能粉末X線回折実験を行い、その結果から相転移の機構について考察を行った。 粉末試料は通常の固相反応法により作成した。実験は、高エネルギー加速器研究機構・放射光研究施設PFのビームラインBL-3Aで行い、測定は転移温度よりも十分低い50Kにおける粉末X線回折実験を行った。 その結果、高温相は空間群Fd3mの立方晶を有する正スピネル構造であったが、低温相においては、(1)440基本反射が6つのピークに分裂している、(2)元のスピネル型格子を基準にした場合、反射指数hkl全てが半整数の反射と偶奇混合の整数反射で説明できる超格子反射が現れる、ということが明らかとなった。これらの結果から、CuIr_2S_4の低温相の結晶構造の基本格子ベクトルa',b',c'は、元の格子の基本格子ベクトルをa,b,cとして、a'=-b+c,b'=(2a+b-c)/2,c'=(b+c)/2で表せることを明らかにした。このような構造を仮定すると、Irイオンは8つの不等価なサイトを占めることになる。これは、この物質の金属-絶縁体転移のひとつの原因であると考えられているIr^<3+>とIr^<4+>の電荷秩序が起こっていることを支持するものである。さらに、超格子反射の出現は、Ir原子が高温相に対応する位置から僅かにずれることによって生じており、磁性を打ち消すためにIr^<4+>のスピン二量化が起こっていることを示唆するものである。 これらの結果は、日本物理学会、磁性国際会議で発表を行い、論文についても、現在執筆中である。
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