研究概要 |
地殻中深部で変形した岩石中で,しばしば細粒斜長石(d<5μm)が長石ポーフィロクラストから面構造と平行に伸びている.しかし,細粒長石の塑性変形の性質については,不明な点が多い.このため本研究では,畑川破砕帯に沿った小剪断帯において,石英-長石マイロナイトのSEM-EBSPによる結晶方位解析を行った. 解析を行った試料中では,変形は剪断帯中心部に向かい強くなる.変形とともに石英層の結晶定方向配列は強くなり,高歪領域で石英層は強い定方向配列を作る.一方,高歪領域で石英層は著しく引き伸ばされ,孤立した石英粒子の配列を形成する.これらの石英粒子の配向性はほとんどランダムである. 細粒斜長石は低歪領域において強い結晶定方向配列を示すが,これは母晶の方位を反映したものである.一方,中〜高歪領域で,極点図はほぼランダムとなる.これらの細粒長石中では転位下部組織,動的再結晶組織がよく発達している. 今回の結果は,上部,中深部の地殻のレオロジーを考える上で重要である.石英層は転位クリープにより変形した一方,孤立石英粒子は,周囲の細粒長石の変形に支配された回転を受けるためランダムなファブリックを作る.すなわち,石英の塑性変形強度は細粒長石よりも硬く,細粒長石の変形過程の重要性が示唆される. 一方,細粒斜長石のランダムファブリックと転位下部組織について次の説明が考えられる. (1) 優先滑り系を特に作らず多数の滑り系が同時に活動する転位クリープ. (2) 転位クリープと粒界滑りが同時に活動する. 実験などの結果からは優先滑り系を作らない転位クリープは困難である.このことが正しければ,(2)の仮説が妥当である.今回の結果は,斜長石の力学と変形機構について我々の理解が及んでいない領域の存在を示している.さらに,このような転位過程と粒界滑りの両方が起こる領域での物質のレオロジーについて今後の研究が望まれる.
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