研究概要 |
平成13年度は、前年度に組み上げた時間分解電子常磁性共鳴(EPR)検出型ファラデー実験装置を用いて幾つかの化合物を対象に実験を試みた。 スピン二重項である安定な中性ラジカルとして、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1ーオキシル(TEMPO)ラジカルおよび2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1ーオキシル(TANOL)ラジカルについて磁気光学効果実験を行った。酸素による影響を避けるために3mMの試料濃度に調整したエタノール溶液を真空ライン内で脱気処理した後、室温においてファラデー効果の測定を行った。ナノ秒YAGレーザーの第2高調波(532nm)を励起光源として用いた。ラジカルのスピン副準位間の占有数差(スピン分極)を検出するため、安定ラジカルからの応答信号である自由誘導減衰(FID)あるいは電子スピンエコー(ESE)をナノ秒パルスマイクロ波を用いて観測した。右回り偏光励起を行ったときの応答信号と左回り偏光励起時の信号の強度変化を調べたところ、どの中性ラジカルについても有意な偏向方向依存性は認められなかった。そこで、イオン性の有機ラジカルであるペリレンカチオンラジカルについて同様な実験を行った。しかしながら、この場合も明瞭な磁気光学効果が観測されなかった。有機分子のスピン軌道相互作用が小さいことが磁気光学効果を起こしにくい原因と考え、S=1/2である銅二価イオン(CuSO_4, CuCl_2)について測定を行った。しかし、これらの無機イオンの室温中におけるスピン横緩和が装置の不感時間よりも短いため、EPR信号自身を捕らえることができなかった。
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