研究概要 |
これまでに我々は、ビニルフェナントレン誘導体の[2+2]光環化付加反応によりさまざまな構造をもつフェナントレノファン類を合成し、その構造と蛍光発光挙動、特にエキシマー形成挙動との関連を明らかにしてきた。この場合、フェナントレノファンに架橋鎖として含まれているシクロブタン環は、芳香環の配座の固定には極めて有効であったが、光により開裂しやすく光安定性の点で問題があった。そこで本年度は、より光化学的に安定なものを目指して、シクロブタン環を含まないフェナントレノファンの合成に着手した。その中で、シクロブタン環の代わりに-CH_2-O-CH_2-結合を架橋鎖ユニットとして含むフェナントレノファンの合成に成功した。 1,3-ビス(3-ヒドロキシメチル-9-フェナントリル)プロパンの酸触媒存在下での分子内エーテル化反応により、目的のオキサ[3.3](3,9)フェナントレノファンが単一の異性体(1a)として得られた。^1H-NMRスペクトルの検討により、1aは芳香環が部分的に重なったanti体であることが分かった。1aの蛍光スペクトルにおいては、409nmに極大をもつブロードなエキシマー蛍光が観測され、またその蛍光寿命を3-メチルペンタン中で測定したところ、室温では19ns,77Kでは24nsであった。1aは従来のシクロブタン環を有するフェナントレノファンよりも光化学的に安定であり、これらの測定中にほとんど分解は認められなかった。 同様の方法でオキサ[3.4](3,9)フェナントレノファン(1b)の合成にも成功し、この場合はsyn体、anti体の両異性体の単離に成功した。
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