研究概要 |
水晶を不斉源とした高鏡像体過剰率を持つ有機化合物の合成に成功した先年度の結果をふまえ,イオン性の不斉無機結晶である塩素酸ナトリウムを不斉源とする不斉合成反応を検討した。不斉を持たないピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛を塩素酸ナトリウム存在下で反応させ,d体の塩素酸ナトリウム存在下ではS体のピリミジルアルカノールを,l体の塩素酸ナトリウム存在下R体のピリミジルアルカノールを,それぞれ高エナンチオ選択的(最高98% ee)に得ることに成功した。一般に,イオン性無機結晶と有機化合物との間の相互作用は極めて微弱であることから,本反応によって得られるピリミジルアルカノールの極めて高い鏡像体過剰率は,系中で生成する,塩素酸ナトリウムの不斉に応じた絶対配置を持つピリミジルアルカノール亜鉛アルコキシドの不斉自己触媒反応における不斉の増幅作用が強く働いた結果であると考えられる。さらに,d体およびl体の塩素酸ナトリウムを混合した試料を用いてピリミジンカルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛の反応を行った。この結果,得られるピリミジルアルカノールの絶対配置は混合試料中の主異性体により支配されることもあわせて明らかにした。以上,イオン性無機結晶である塩素酸ナトリウムを不斉源に用いて極めて高い鏡像体過剰率を持った有機化合物の合成に成功した本結果により,種々の不斉無機結晶を不斉源として用いることが可能であることが示された。
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