研究概要 |
強相関物性を示す化合物の母体物質となるような低次元構造を有する磁性体では,スピン量子効果に由来して,低温の基底状態が非磁性となり,励起状態との間にギャップが開くいわゆるスピンギャップ状態をとるものが幾つか報告され,強相関物性の発現機構に関連して非常に注目されている.本研究の対象となるCuSb_2O_6はトリルチル化合物の一つで,Cuだけに着目すると高温超伝導体La_2Cu0_4と同じ構造を持ち,Cuサイトは2次元正方格子配列をなす.従ってその磁性も2次元的な振る舞いが期待されるにもかかわらず,その帯磁率は50K付近にピークを持ち,BonerとFisherらによる1次元Heisenberg型反強磁性体の理論計算と非常によい一致を示す.さらに8.5Kにおいて磁気相転移によるものと思われる帯磁率の減少を示す.この帯磁率の減少はスピン系が格子系と結合してダイマライズすることによりスピン一重項となる,いわゆるスピンパイエルス転移を起こしている可能性も示唆されていた.単結晶試料を用いて行った中性子線回折実験の結果,磁気ブラッグ反射を観測し,反強磁性長距離秩序であることを確認した。また,低温での磁気構造はb軸方向にスピンが揃う,いわゆるコリニアーオーダーであることが明らかとなり,2次元正方格子の辺方向(J1)と対角線方向(J2)のスピンフラストレーションがこの系で重要であることを明らかにした.このフラストレーションの度合い(J2/J1)により長距離磁気秩序が消失する,いわゆる量子臨界点近傍について,様々な理論的予測がなされており,そのような観点から,SbサイトヘのTa置換,CuサイトヘのZn置換を行い,辺方向及び対角線方向の相互作用の大きさをかえることに成功した.その結果,それらが拮抗する量子臨界点近傍において,長距離磁気秩序の消失とともに,NMRの緩和率測定においてスピンギャップ的な振る舞いが観測される等,新たな実験的知見を得ることができた.
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