研究概要 |
二光子吸収により光化学反応を誘起して液晶の相構造制御を行うため,本年度はまず二光子吸収により光異性化するアゾベンゼンを開発し,光異性化挙動を検討した。アゾベンゼンの光化学反応を二光子吸収によって誘起するため,二光子吸収性を示す化合物をアンテナ部位としてアゾベンゼンに導入した。本研究では,二光子吸収が効率よく起こることが報告されているローダミンBをアンテナ分子として用いた。ローダミンBを導入したアゾベンゼンのcis体に,1064nmのレーザーパルスを照射しアンテナ部位を二光子励起すると,アゾベンゼン部位がtrans体に異性化した。アゾベンゼンはtrans体,cis体のどちらも1064nmには吸収を示さないこと,およびローダミンBの蛍光がアゾベンゼンのcis体により消光されることからローダミンがアンテナとして機能しており,ローダミンを二光子励起するとその励起エネルギーがcis-アゾベンゼンに移動しcis-trans光異性化が誘起されることが明らかになった。 次に,二光子吸収により誘起される光化学反応により,液晶の相構造変化を誘起できるか検討した。二光子吸収色素としてスチルベン誘導体を導入した低分子および高分子液晶を用い,レーザーパルス照射による液晶相状態の変化を偏光顕微鏡で観察した。その結果,色素が一光子吸収を全く示さない680nmのレーザーパルスを照射すると,照射部位のみで液晶相-等方相相転移が誘起されることが分かった。これは,二光子励起によりスチルベン誘導体の異性化・環化反応が誘起され,液晶の相構造が不安定化されたためである。本研究では,二光子励起により数ミクロン程度の微小領域でのみ光相転移を誘起できた。光学系を改良することで波長オーダー(数百nm)以下の領域でも光相転移を誘起できると考えることができ,超高密度光記録へ応用できる可能性がある。
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