研究概要 |
1.キイロショウジョウバエとその近縁種の嗅覚レセプター遺伝子の塩基配列の決定 Drosphila melanogaster(キイロショウジョウバエ)のゲノムには約60の嗅覚レセプター遺伝子が存在することが、明らかになっている。我々はそのうち9種の嗅覚レセプター遺伝子(2a, 24a, 33a, 33b, 33c, 46a, 46b, 47b, 59a)について、D.melanogaster, D.simulans, D.mauritiana, D.sechellia, D.yakuba,, D.takahashi, D.pseudoobscura)などからクローニングを行い、その塩基配列を決定した。D.melanogaster, D.sechelliaについてはさらに種内変異の比較のため、33a, 33b,33cとその上・下流領域を各々13系統と6系統から決定した。 2.嗅覚レセプター遺伝子の塩基配列データーの分子進化学的解析 それぞれの嗅覚レセプター遺伝子について、種内変異、種間変異の特徴を調べ、進化過程について調べた。まず、各嗅覚レセプター遺伝子の誕生時期は非常に古いことを明らかにした。そして塩基置換の起こり方は分子進化の中立説に従う特徴を示し、有害な変異の排除と、淘汰に中立(ほぼ中立)の変異の蓄積によって進化していることを示した。 一方、33a, 33bの遺伝子については、遺伝子重複直後に正の自然淘汰をうけて固定したと思われるアミノ酸を明らかにした。これらは、膜貫通領域の1部に集中しており、匂い分子との結合特異性等に関わる可能性が考えられる。我々のメダカの嗅覚レセプター遺伝子の重複後の進化過程においても、1部の膜貫通領域の急速なアミノ酸置換が推定され、共通な現象が示唆されている。 種内変異量の推定により、嗅覚レセプター遺伝子は種内変異量が比較的高い遺伝子であることが示された。また、D.melanogasteよりD.sechelliaの方が種内変異量が高い傾向が示された。 今後はさらにD.melanogasteとD.sechellialとで比較する遺伝子数を増やし、生息する匂い環境と嗅覚レセプター遺伝子の進化との関連性を明らかにしていきたい。
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