研究概要 |
1.通常の葉緑体は中央で分裂し,同サイズの娘葉緑体2個となるが,「中央」の認識機構は不明である.葉緑体の祖先,真正細菌には'MinCDEシステム'と呼ばれる分裂面決定機構が存在する.MinC, MinD両蛋白質は複合体を形成してFtsZによる細胞分裂リングの形成を阻害する.MinEは細胞中央の分裂面でのみ,MinCD複合体によるFtsZリング形成阻害を解除する.その結果,FtsZは分裂面でのみリングを形成できる.この点に着目し,前年度,シロイヌナズナより核コードminE, AtMinE1遣伝子を単離した.AtMinE1蛋白質は真正細菌のMinEに対してN末端に約100残基の延長部を持ち,この配列が葉緑体移行シグナルとして働く.本年度は,AtMinE1の転写産物量が1/3〜1/4に減少したシロイヌナズナのアンチセンス形質転換体を取得した.これらのラインでは葉緑体分裂阻害(数の減少とサイズの巨大化)が観察され,葉緑体分裂の正常な調節におけるAtMinE1の必要性が確かめられた. 2.シロイヌナズナのゲノムデータベースの情報から,ミトコンドリア移行シグナル(presequence)様のN末端ペプチドを持ったキネシン様蛋白質(KRP)が5つ存在することが推定された.前年度,このうち2つのcDNA全長を単離した(MKRP1,MKRP2).ミトコンドリア内部に移行するKRPはこれまで知られておらず,かつミトコンドリア内にはキネシンモーターのレールとなる微小管は存在しないため,MKRPがミトコンドリア内に移行するとすれば興味深い.本年度はMKRPの細胞内局在を確かめるため,MKRP-GFPとHSP60(ミトコンドリア局在型シャペロニン)presequence-CFPとをタバコ葉で一過的に共発現させた.その結果,GFPとCFPとの共局在が確認され,MKRPのミトコンドリア移行能が示された.
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