研究概要 |
外部からの遺伝的交流が制限されている大洋島の植物集団において、遺伝的多様性がどのように創出・維持されているのか,そして種分化がどのように進行するのかを明らかにするため、小笠原諸島のフヨウ属やシロテツ属などの植物群を対象として、現地調査、外部形態の解析、酵素多型分析に基づく集団の遺伝的構造の解析、葉緑体DNAの塩基配列データに基づく系統地理学的解析などを行った。 その結果、フヨウ属の小笠原固有種モンテンボクにおいて、諸島内の地域集団間で葉緑体DNAの多型が数多く検出されたが,その分布は局所的であり、外部形態も集団間で大きな変異を示した。それに対して広域分布種のオオハマボウに関しては、小笠原諸島内で確認されたハプロタイプの多くが太平洋からインド洋にかけて広く分布することが明らかとなった.このことは、オオハマボウの種子は浮遊性をもつことで海流散布を行い、島嶼間で遺伝的交流が保たれていることを示唆する一方で、モンテンボクの種子は浮遊性を喪失し海流散布されないことが集団間の分化を促進する要因であると推測された。 シロテツ属植物に関しては、大洋島の植物集団としては前例がないほどの著しい酵素多型が集団内で検出された。集団間の遺伝子流動の推定や繁殖システムの解明、祖先の多数回移入を検証するための遺伝子系図学的解析などを行った結果,同一分類群内の集団間の遺伝子流動は島間でも高く保たれ,外交配(雌雄異株)を行うことで集団内の遺伝的多様性が維持されていると推察された.また分類群間で開花期のずれや生育環境の棲み分けが見られ、このことが分類群間の遺伝子流動を制限し,種分化を促進している可能性も示唆された.しかし多数回移入を支持する結果はまだ得られていないため,遺伝的多様性の創出機構は現時点では未解決の問題として残された.
|