研究概要 |
浅海および深海産棘皮動物の形態形成遺伝子群(ホメオボックス遺伝子群 : Hox)について系統解析を行い、浅海-深海種の系統進化に関する比較考察を試みている。さらに、棘皮動物の幼生が南極-北極を結ぶ低温深海流で運ばれることによる両極間の個体群交流を想定した作業仮説(底生動物における深海経由の両極交流仮説)を立て、その検証を目的とした南極産棘皮動物の遺伝子解析も行った。 これまでに深海産13種,浅海産18種,および南極産1種の棘皮動物からゲノムDNAを抽出し、それらのうち、深海産8種、浅海産7種、南極産1種についてHoxのPCRライブラリー作成と塩基配列の決定を行い、予察的に分子系統樹を構築した。また、現在までに6種類の棘皮動物について18S rDNA配列(約1.8kb)による分子系統解析を行った。それらの解析から下記の結果が得られた。 1.Hoxの種類によって進化が種分化以前に起きたケース(pre-speciation differentiation)と種分化以後に起きたケース(post-speciation differentiation)の両方が混合していることが示された。これは、グループの異なるHox間では遺伝子の進化速度が異なることを示唆する。 2.Hoxの分子系統樹と18S rDNAによる分子系統樹との比較を行ったところ、Hoxの分子進化(変異の蓄積速度)が系統とは必ずしも一致しないことを示された。 3.18S rDNAによる系統解析の結果、深海棘皮動物が必ずしも古い形質を持つとは考えられないことを示す結果が得られた。これは深海棘皮動物が持つHox遺伝子は、独自の進化を遂げている可能性があることを示唆する。
|