研究概要 |
歯根形態を研究する方法として,計測による方法と観察による方法がある。非計測的形質(観察に基づく形質)の内,下顎第1大臼歯の3根性,上顎第1小臼歯の単根性や上顎第3大臼歯の単根性などが東アジアの人類集団を区別する上で有用である事は以前から知られている。しかし,先史から現代に至る東アジアの多数の人類集団について歯根計測値を調査した研究は行われていない。また,非計測的形質についても多数の観察項目を網羅した研究は少ない。本研究では,根幹長の計測に加え,歯根長,セメント・エナメル分岐部での近遠心径・頬舌径といった計測と各歯の歯根数や歯根の癒合状態(溝の出現状況を含む)などの観察を行い,先史から現代に至る日本列島を含む東アジアの多数の人類集団の永久歯・乳歯の歯根形態を調査した。調査した集団は,鹿児島大学歯学部,東京大学総合研究博物館,京都大学大学院理学研究科,九州大学大学院比較社会文化研究科に保管されている,日本列島の各時代集団,中国人,モンゴル人をはじめとする東アジアの人類集団について行った。また,中国の安陽殷墟出土人骨(中国新石器時代人)の歯根形態のデータも採取した。下顎第1大臼歯の根幹長(歯頸線から根分岐部までの距離)については,渡来系弥生人,礼安里をはじめとする韓国三国時代人,慶尚南道現代人や中国安陽殷墟出土人骨(中国新石器時代人)で短く,日本の縄文人,種子島弥生人で長いという結果が得られた。
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