研究代表者は、既に、Ditetradecyldimethylammonium-Au(dmit)_2(2C_<14>-Au(dmit)_2)に基づく導電性LB膜中に超伝導相が存在する可能性(Tc=3.9K)を複素磁化率(X'+iX")の測定結果から指摘している。平成12年度には、複素率の測定を直流磁場を重畳して行い、直流磁場(〜600 Oe)の重畳により反磁性方向への磁性の転移が低温側にシフトすることを見出した。この結果は3.9Kにおける転移が超伝導によるものであることを示唆するが、抵抗値は、まれに3.9K以下で、冷却によりゆるやかに減少する試料が作製できるものの、この抵抗減少が見られる試料は少ない。平成13年度には、(1)試料の作製条件の改良、および(2)圧力効果も含めた詳細な物性の検討、の2項目に焦点を絞って研究を遂行した。以下に研究成果を記す。 (1)試料の作成条件の改良 前年度に、膜物質の溶液の水面への滴下から圧縮開始までの時間(待ち時間)に依存して、膜の形態と電子状態が大きく変化することを見出しており、この酸化過程が膜の形態と電子状態の変化に関わっていることが明らかとなっている。今年度は、この研究成果をもとに、2C_<14>-Au(dmit)_2LB膜の成膜に際しては、待ち時間(T_w)と定電流法による陽極酸化処理の時間(T_<ox>)を組み合わせた試料の作成条件の最適化に取り組んだ。T_wとT_<ox>を適当に設定することにより、室温の面内方向の電気伝導度をこれまでの値の2倍程度である100S/cmに上昇させることに成功した。 (2)圧力効果も含めた詳細な物性の検討 通常、測定に用いる試料は、20層累積膜であるが、それでも厚みは100nm程度と薄く、抵抗測定にこれまで用いてきた定電流値(〜10μA)は、低温での発熱の効果を無視できないことが明らかとなった。そこで、電流値を〜100nA程度に落として測定をしたことろ、抵抗減少が再現性良く見出された。また、静水圧力の印加により、抵抗値は減少した。これらの結果は、広域的超伝導の実現へ向けての大きな前進と言える。
|