Si系半導体からより良好な電気的・光学的特性を引き出すために、Si基板上に作製したヘテロ構造が利用されている。Si-SiGeヘテロ構造はデバイス応用からも大いに注目されている。本研究の目的はSiGe混晶薄膜の酸素曝露による酸化過程のその場観察である。既設の固体ソースMBE装置により作製した試料の観測と、その表面構造の酸素暴露による影響を超高真空STM装置にて観察し、SiGe膜の初期酸化過程を明らかにすることであった。ゆえに、コンポーネントの入れ換えを含むMBEシステムのチューンナップを進め、安定にex-situ観察用試料を作製できる構成を得た。これとは別に、初期酸化の観察をおこなう超高真空走査トンネル顕微鏡装置中へ薄膜の蒸着機構およぴ気体導入機構を付加し、試料表面を大気暴露することなく混晶表面の作製から酸素暴露、そしてその観測までを超高真空中でおこなうことを可能とした。ではあるが、STMという直接に元素分析をするわけではない観測手段ゆえ当然予想されていたことではあるが、SiGe表面の酸化過程そのものの解明は途上である。一方、当研究の動機のひとつにSiGe混晶表面においてバンド端よりも高いエネルギーに観測される異常な吸収バンドの存在があった。これに関する探索を進めた結果、この吸収バンドはSiGe混晶のみならずSiGeC混晶、また、C原子、Bi原子をSi基板にイオン注入した試料においても観測された。これらの線幅は広く不均一幅の寄与が大きいことを示唆している。つまりその起源は表面近傍における欠陥の導入と関わりがあると考えられる。SiGe混晶表面についてはその表面を酸化することでこの吸収バンドが発現することがわかっている。これは異常吸収が酸化SiGe表面自身によってではなく、酸化により誘起される酸化層-基板界面の構造変化に起因することを暗示している。これらをふまえ、SiGe混晶表面の酸化過程の解明を現在も鋭意遂行中である。
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